ヴィラ・ジュリア          2/4-1

2/4 三つの中庭

 

1)第一の中庭

 いま出てきたばかりの第一の建築を振り返る。

進行方向。四阿(あずまや)の向こうに第二の中庭。鳥の声と雁金草の匂いに満たされた大気。

正統な場所。端正なデザイン。振り返れば第一の建築の半円。

正面と両サイドのセンターに位置する柱列と、背後の半円の中心。ピークを四面に配して点対称の中央が強調された記念的なスペースを形成する。住まい手の地位に応じたフォーマルな公的の空間としていいのだろう。正面三方の建築は低く抑えられて、教会や宮殿の饒舌な雄弁はなく、イオニックのオーダーで少しドレスダウンしてとてもフレンドリーだ。独身男性の居館としてふさわしい。

前にすすみ正面の中央に設けられた四阿(あずまや)に至ると第二の中庭が見えはじめる。

それにしても、その第二層の柱が物神化してる。そう、向こう側はちょっと違う場所なのだ。

 

2)第二の中庭。

  神秘の場所。第一の建築の半円を踏襲する平面。ただし様相が全く異なる。

下方の地の底の物語を遠巻きにするように、1/4周旋回する階段で一層分降りる。

地上層はイオニック・オーダーが踏襲されるが、地下第一層はドリック・オーダーが採られ厳正の位置づけ。そこからオーダーを欠いた柱列をもつニンフェウムを見おろす。格はなく「無印」、規範外ということだ。

地の底の、そのさらに深い地の底で、薄衣のニンフたちが水路のある暗がりを密やかに囲む。半円に暴かれた地底には、水路を巡る苔むしたグロット(洞)の小さな噴水がたてる涼やかな水の音のみ。仮構された秘密が潜む暗がりを覗き込みながら空間のトーンに浸る。

解らないでもない。ここは水の豊富な場所だったのだ。山裾だからいたるところに湧水はあっただろうし(そもそもこの敷地がそうなのかもしれない)、西にすぐテベレ河。水を巡るイマジネーションが蔓延って不思議ではない。この敷地が唯一的に産みだす幻想なのだ。

※オーダー : サー・ジョン・サマーソン『古典主義建築の系譜』で、ドリック・オーダーは「大文字」の施設に、イオニック・オーダーは図書館等に使われるべきとする後世の理論書が紹介されている。

(ところで、カソリックの聖職者がこんなエロテイックな空間を所有していいものなんだろうか?

それにこの多神教的な様相をどうする。一神教の、しかもその頂点たる地位にいるんじゃないのか。

じつに怪しい。一方で「『カラマーゾフの兄弟』の大審問官の章」の限界の自省も有り得るってのに…あの劇中劇の設定って16世紀だぞ。文化ってのは額面上の通り一遍じゃいかないもんだな。)